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東京地方裁判所 平成6年(ワ)12586号 判決

原告

嶋﨑一郎

ほか二名

被告

醍醐正勝

参加人

シグナ傷害火災保険株式会社

主文

一  被告醍醐正勝は、原告嶋﨑一郎及び同嶋﨑トシ子に対し、それぞれ金八六三万三五三四円、同陳惠莉に対し、金三四四三万四一三八円及びこれらに対する平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  参加人は、原告らの被告醍醐正勝に対する本判決が確定したときは、原告嶋﨑一郎及び同嶋﨑トシ子に対し、それぞれ金八六二万三五三四円、同陳惠莉に対し、金三四四三万四一三八円及びこれらに対する平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告醍醐正勝(以下「被告醍醐」という。)は、原告嶋﨑一郎(以下「原告一郎」という。)及び同嶋﨑トシ子(以下「原告トシ子」という。)に対し、それぞれ金一八〇七万八七六七円、同陳惠莉(以下「原告惠莉」という。)に対し、金七二三一万五〇七一円及びこれらに対する平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  参加人は、原告らの被告醍醐正勝に対する本判決が確定したときは、原告一郎に対し、金一八〇七万八七六七円、同トシ子に対し、金一八〇七万八七六七円、同惠莉に対し、金七二三一万五〇七一円及びこれらに対する平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠上優に認定できる事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成六年一月二一日午後一一時三五分ころ

(二) 事故現場 東京都国分寺市北町三丁目一八番六号先路上(以下「本件道路」という。)

(三) 被告車 普通貨物自動車

運転者 被告醍醐

所有者 被告醍醐

(四) 事故態様 被告醍醐が、勤務先の新年会で飲酒した後、被告車を運転中、本件現場付近で、右飲酒の影響で居眠りをしたまま、漫然と被告車の運転を継続し、本件事故現場付近の歩道上を歩行中の訴外嶋﨑順孝(当時三二歳、以下「訴外順孝」という。)に被告車を衝突させ、訴外順孝に内臓破裂等の傷害を負わせ、訴外順孝は、翌一月二二日、右傷害により、死亡した。

2  責任原因

(一) 被告醍醐

被告醍醐は、被告車を所有して、運行の用に供させていたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 訴外シグナ・インシユアランス・カンパニー(以下「訴外シグナ・インシユアランス」という。)は、平成五年一一月三〇日、被告醍醐との間に、保険の目的を被告車、対人賠償の保険金額を無制限とする自家用自動車総合損害保険契約を締結した。

3  相続

原告惠莉は、訴外順孝の妻、原告一郎と同トシ子は訴外順孝の両親であり、唯一の相続人であるから、原告惠莉は二分の一、原告一郎と同トシ子は各四分の一ずつ、訴外順孝の損害賠償請求権を相続した。

4  債務の移転

訴外シグナ・インシユアランスは、平成八年七月一日、訴外シグナ・インシユアランスが日本国で締結され有効に存続する保険契約の全てを、包括して参加人に移転し、参加人は、原告らに対する債務の一切を譲り受けた。

二  争点

原告らは、訴外順孝の逸失利益を算定するに際し、死亡時の給与に固定して算定するのは相当ではなく、昇給、昇格を考慮して同人の逸失利益を算定すべきであると主張しているのに対し、被告らは、昇給、昇格を考慮して同人の逸失利益を算定するのは相当ではないと主張している。

第三損害額の算定

一  訴外順孝の損害 七八六七万三六〇五円

1  治療関係費 一六万五五二〇円

甲三及び弁論の全趣旨によれば、訴外順孝は、本件事故後、日本医科大学付属多摩永山病院に入院し、治療費等として一六万五五二〇円を要したことが認められる。

2  葬儀費用 一二〇万円

甲三によれば、原告らは、葬儀費用として二七二万七一三七円を支出したことが認められるが、経験則上、本件と相当因果関係の認められる葬儀費用は、合計一二〇万円と認めるのが相当である。

3  逸失利益 四八七三万四七四〇円

(一) 原告らは、「訴外順孝は、本件事故時、訴外株式会社昭工舎(以下「訴外昭工舎」という。)に勤務し、本件事故の前年の平成五年には残業手当も含み四六〇万六七二三円の給与収入を得ていたところ、今後、毎年三パーセントのベースアツプと将来少なくとも部長職相当の八職級への昇格が見込まれ、これに伴う給与の増額が認められるので、右の昇給等を考慮して逸失利益を算定すべきであるから、訴外順孝の失逸利益は別紙のとおり九八七七万〇二九九円と認められる。」と主張し、被告らは、「訴外順孝の逸失利益の算定に際し、その昇級、昇格は考慮するのは相当ではない。」と主張するので、以下、検討する。

(二) 昇格について

(1)ア 甲八ないし二四、乙二、証人辻徹(第一回、第二回)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

イ 訴外昭工舎は、昭和一二年七月一日設立(創立は昭和四年四月)の株式会社で、資本金は四〇〇〇万円、本件事故時の従業員数は四六〇名であり、関連子会社の従業員を合計すると従業員数は一〇〇〇名を超えている。事業内容は、腕時計外装部品製造、装飾品製造等の株式会社であり、セイコー電子工業、セイコーエプソン、服部セイコー等を主要取引先としている。

訴外昭工舎の職能資格制度は、一職級から一〇職級までに別れており、職掌区分は、一職級から三職級までが一般職、四職級から六職級までが専門職、七職級以上が管理職となつている。職制との関係では、四職級がリーダー、六職級が係長ないし課長代行、七職級が課長代行ないし課長、八職級が課長ないし工場長、部長となり、九職級以上は役員となつており、業務遂行能力別に各職級に割り当てられる。

本件事故当時の訴外昭工舎の基本給は、五職級で二四万二三〇〇円、六職級で二七万〇二〇〇円、七職級で三八万四四〇〇円、八職級で五〇万〇四〇〇円であつた。また諸手当は、五職級及び六職級で月額一万四五〇〇円、七職級で月額六万三〇〇〇円、八職級で月額九万三〇〇〇円である。

ウ 訴外順孝は、大学を卒業後、昭和六〇年四月に、訴外昭工舎に入社した。訴外昭工舎は、毎年大学卒の従業員を二ないし五名、新規採用しているが、訴外順孝と同時期に入社した大学卒の従業員は、訴外順孝の外に三名いた。訴外昭工舎では、大卒男子の従業員は後記の職能資格制度の四職級に割り当てられるため、訴外順孝も入社と同時に四職級に配属され、入社六年後の平成三年四月一日付で五職級に昇格し、本件事故当時も五職級であつた。訴外順孝は、入社後、総務部管理課に配属になり、企画、立案、調査、輸出関係の取引業務の中の調査業務、銀行、官庁相手の業務に従事していたが、五年間、同課に勤務した後、蕨工場の生産統制課へ異動した。

本件事故時、五職級であつた訴外順孝の平成五年の収入は、残業手当も含めて四六〇万六七二三円であつた。

エ 訴外昭工舎の昇格基準には、四職級から七職級までの昇格と八職級以上の昇格に区別が設けられている。

四職級から七職級までの昇格は、同一職級に二年以上滞留している者で、過去の人事考課成績の優秀な者、専門職、管理職としての職務を遂行する能力ありと判定され期待できる者、人物識見が上位職級者としてふさわしいと判定される者が受験資格を有している。訴外昭工舎では、年三回の個人評価を実施しており、考課がAからEまでに分かれ、Cが基準となる。昇格には上司の推薦が必要で、それを受けて四職級以上は試験を受けて昇格が判定される。

四職級から七職級までは、筆記試験を一次試験とし、四職級から五職級へは、二〇〇点満点で一二〇点以上、五職級から六職級、六職級から七職級へは、一〇〇点満点で六〇点以上の者が、二次試験を受験できる。二次試験は、論文と面接を各一〇〇点満点とし、論文に三〇パーセント、面接に七〇パーセントの比重を置いて、総合で六〇点以上の者を昇格させる。

八職級から一〇職級への昇格は、七職級を二年以上を経た者、八職級から九職級へは、八職級を一年以上を経た者、九職級から一〇職級へは、九職級を一年以上を経た者の中から、経営者としての資質を備え、過去の管理業務の成果が著しく優秀な者を、総合審査で判定し、昇格させる。

オ 訴外昭工舎では、制度上は、四職級から五職級へは、最大でも一〇年を経ると五職級に昇格し、五職級から六職級へは、最大でも二〇年を経て昇格するのに対し、六職級から七職級へは、制度上、確実に昇格するようには規定されておらず、規定上は、六職級から七職級へ昇格できない者も存在する。しかしながら、一般的には、五職級から六職級への昇格は、平均して七、八年から一〇年間程度の期間、五職級に滞留した後、六職級に昇格している。また、六職級から七職級への昇格は、早い人で三年、遅ければ一〇年間、平均すると七、八年間、六職級に滞留した後、七職級に昇格している。しかしながら、七職級から八職級への昇格は個々人の能力に依存されており、千差万別であり、昇格しない者もいる。

カ 訴外順孝と同じ年に入社した大学卒の従業員は他に三名いたが、一名は退社し、他の二名は平成八年三月に五職級から六職級への昇格試験を受験し、近々、六職級への昇格が見込まれる。訴外順孝と前後して入社した大学従業員は、社員全体に占める人数が少なく、幹部候補生であり、そのほとんどが、概ね、四〇歳ころには課長相当職の七職級に昇格していること、右のような昇格をしない場合は、勤務評定に問題がある場合であること、訴外順孝は、五職級に昇格した平成三年四月までの二年間の平均考課は、七段階考課の内の上から三段階目であり、死亡時までの考課は、平均を上回つていたこと、同様に七段階考課の内の上から三段階目であつた同期入社の大卒社員は課長相当職の本社係長となつている。

キ 訴外順孝が入社した際の直属の上司で、その後、総務部長兼取締役となり、入社後、本件事故で死亡するまでの訴外順孝の勤務状況を見てきた証人辻徹は、訴外順孝が、大卒の事務系従業員であることや、訴外順孝の勤務評定等から見て、順調にいけば、訴外順孝は、三五歳ころには六職級へ、四〇歳ころに七職級へ、四六歳ころには部長相当の八職級には昇格したであろうと推測している。

(2) 以上認定できる、訴外順孝が、訴外昭工舎では、社員全体に占める人数が少なく、同社の幹部候補生である大卒従業員であつたこと、訴外昭工舎の昇格の制度、基準、これまでの訴外順孝の業務成績、考課評価、同程度の経歴を有する従業員の昇格との対比、訴外順孝が、本件事故までの間、比較的順調に五職級に昇格していたことに加え、訴外順孝は、死亡時三二歳であつたが、各年の賃金センサスを見ても、訴外順孝と同じ大学卒業者の年齢別平均賃金が三二歳以降、六〇歳までは、年を経る毎に上昇し、また、全年齢平均賃金と比しても、三二歳相当の賃金が低額であり、死亡時三二歳であつた訴外順孝の賃金が将来上昇するであろうことは、十分に推認できることに鑑みると、訴外順孝は、退職する六〇歳にいたるまでの間に、課長、若しくは、課長代理相当職の七職級には、確実に昇格したものと認められる、他方、八職級への昇格は、その昇格基準が極めて個人の能力に依存する内容となつており、訴外順孝が八職級へ昇格する可能性も否定できないものの、現時の証拠関係では、訴外順孝が、将来、確実に八職級に昇格するとまでの蓋然性は認められない。

そして、昇格の時期については、将来の予測であるため、損害賠償として容認しうるのは、最も確実な蓋然性の立証がなされた範囲内であり、平均的な昇格の年数を相当程度上回る年数で昇格すると解するのが相当であり、訴外順孝は、五職級に昇格後一〇年後、本件事故から八年後に五職級から六職級に、その後一〇年後に六職級から七職級に、それぞれ昇格すると推認するのが相当である。

(三) 手当、残業及び賞与について

将来、訴外順孝が、どの程度の時間残業を行つて収入を得るかは、その時点での経営状況に依存され、将来にわたつて、継続的に、かつ、確定した時間の残業を行うとは認められないので、残業手当を恒常的に加算して逸失利益を算定することは相当ではない。

次に、諸手当については、訴外昭工舎では、職級に応じて定額が支払われることが認められるところ(甲九ないし一一、二四及び証人辻徹(第一回、第二回)尋問の結果)、五職級及び六職級においては一万四五〇〇円、七職級においては六万三〇〇〇円と認められる。

また、賞与については、甲九ないし一一、二四及び証人辻徹(第一回、第二回)尋問の結果によつて、従前の実績である年間四か月分の賞与が、将来にわたつても支給されると推認するのが相当である。

(四) ベースアツプについて

原告らは、ベースアツプで毎年三パーセントの割合で収入が増額したと主張する。

甲二〇及び証人辻徹(第一回、第二回)尋問の結果によれば、訴外昭工舎では、個人の業績に合わせて、各人ごとにベースアツプを決めているが、訴外順孝の給与については、本件事故までの間、概ね、毎年三パーセントのベースアツプが実施されてきたこと、訴外順孝が死亡した平成六年一月以降、口頭弁論終結時までの間に、訴外順孝と同程度の経歴を有する従業員に対し、平成六年と平成七年に、概ね、各三パーセントのベースアツプが実施されたことが認められるので、訴外順孝が死亡した平成六年一月以降、口頭弁論終結時までの二年間の賃金については、毎年、三パーセントのベースアツプを考慮して訴外順孝の逸失利益を算定するのが相当である。

他方、口頭弁論終結後、将来の分に関しては、いわゆるベースアツプは、物価上昇率等に合わせた賃金の上昇であり、景気の動向等不確定な要素に大きく作用されるのみならず、社会構造等の変化で、個人の業績に無関係で賃金を増加させるベースアツプ制度自体を廃止する企業が増加していることも顕著な事実であり、訴外昭工舎でも、近時数年は、全従業員を平均すると二・五パーセント程度のベースアツプにとどまつていることに鑑みると、将来、確実に、毎年三パーセントの割合でベースアツプが実施され、収入が増額するとは認められないので、口頭弁論終結後については、ベースアツプで収入が増加することは考慮しないのが相当である。

(五) 以上の次第で、訴外順孝の逸失利益は左記のとおりと認められる。

(1) 死亡後最初の一年間 二三八万三九八二円

その間、訴外順孝は、五職級であり、平成六年に三パーセントのベースアツプが実施されているので、訴外順孝の収入は、毎月の給与二四万二三〇〇円に毎月の手当一万四五〇〇円を加えた二五万六八〇〇円に一二を乗じ、毎月の給与の四か月分の賞与を加算した金額である四〇五万〇八〇〇円に、三パーセントを加算した四一七万二三二四円と認められる。

したがつて、この間の訴外順孝の逸失利益は、右に、生活費を四〇パーセント控除し、一年間のライプニツツ係数〇・九五二三を乗じた額である金二三八万三九八二円と認められる(一円未満切り捨て、以下、同様)。

(2) 次の一年間 二三三万八九五三円

この間の訴外順孝の収入は、前年と同様に五職級であるから、右の四一七万二三二四円に、三パーセントを加算した四二九万七四九三円と認められる。

したがつて、この間の訴外順孝の逸失利益は、右に、生活費を四〇パーセント控除し、二年間のライプニツツ係数一・八五九四から一年間のライプニツツ係数〇・九五二三を減じた〇・九〇七一を乗じた額である金二三三万八九五三円と認められる。

(3) その後、六職級に昇格するまでの六年間 一一八七万〇八七八円

この間の訴外順孝の収入は、ベースアツプを考慮しないので、右の四二九万七四九三円と認められる。

したがつて、この間の訴外順孝の逸失利益は、右に、生活費を四〇パーセント控除し、八年間のライプニツツ係数六・四六三二から二年間のライプニツツ係数一・八五九四を減じた四・六〇三八を乗じた額である金一一八七万〇八七八円と認められる。

(4) 六職級に昇格後、七職級に昇格するまでの一〇年間 一五四六万一三九六円

この間の訴外順孝の収入は、平成六年の六職級の毎月の給与二七万九六〇〇円に毎月の手当一万四五〇〇円を加えた二九万四一〇〇円に一二を乗じ、毎月の給与の四か月分の賞与を加算した金額である四六四万七六〇〇円に平成六年と平成七年の各三パーセントのベースアツプ分を加算した四九三万〇六三八円と認められる。

したがつて、この間の訴外順孝の逸失利益は、右に、生活費を四〇パーセント控除し、一八年間のライプニツツ係数一一・六八九五から八年間のライプニツツ係数一・八五九四を減じた五・二二六三を乗じた額である金一五四六万一三九六円と認められる。

(5) 七職級に昇格後の定年の六〇歳までの一〇年間 一四一〇万五六四五円

この間の訴外順孝の収入は、平成六年の七職級の毎月の給与三八万四四〇〇円に毎月の手当六万三〇〇〇円を加えた四四万七四〇〇円に一二を乗じ、毎月の給与の四か月分の賞与を加算した金額である六九〇万六四〇〇円に平成六年と平成七年の各三パーセントのベースアツプ分を加算した七三二万六九九九円と認められる。

したがつて、この間の訴外順孝の逸失利益は、右に、生活費を四〇パーセント控除し、二八年間のライプニツツ係数一四・八九八一から一八年間のライプニツツ係数一一・六八九五を減じた三・二〇八六を乗じた額である金一四一〇万五六四五円と認められる。

(6) 退職金差額 三〇四万四八一四円

甲八ないし二四、証人辻徹(第一回、第二回)尋問の結果によれば、訴外昭工舎の退職金は、退職時の基本給に、勤続年数に応じた年金支給乗率と退職時の年齢に応じた年齢別乗率を乗じ、それに年金現価乗率を乗じた金額となる。

訴外順孝の場合、勤続三三年、六〇歳で、七職級で退職したと考えられるので、退職時の基本給は四〇万七八〇九円(平成六年の基本給三八万四四〇〇円に平成六年と平成七年の各三パーセントのベースアツプ分を加算した額)、年金支給乗率は〇・四七〇と年齢別乗率は一・三〇七、年金現価乗率は、八九・〇六九六となる。さらに、四職級以上で退職した場合の職能退職加給金が、右の金額に〇・一四加算されるので、訴外順孝の予想退職金は、これらを合計した二五四三万六九二四円となる。

これに、生活費を四〇パーセント控除し、二八年間の現価を算出するためライプニツツ係数〇・二五五〇を乗じた額である金三八九万一八四九円から、甲八及び証人辻の尋問の結果から認められる訴外順孝が死亡時に取得した八四万七〇三五円の退職金を控除した差額三〇四万四八一四円が、退職金に関する逸失利益と認められる。

(7) 合計 四九二〇万五六六八円

4  慰謝料 二八〇〇万円

本件が、歩道を歩行中の歩行者を、飲酒の上の事故で死亡させ、かつ、救護せずに逃走して死亡させたという、この種事案としては最も悪質な事案と認められること、訴外順孝の年齢、生活環境、その他、証拠上認められる諸事情に鑑みると、その慰謝料は二八〇〇万円が相当であると認められる。

5  合計 七七二〇万五六六八円

二  損害のてん補 三〇二〇万四四六〇円

本件事故に基づいて、自動車損害賠償責任保険より三〇二〇万四四六〇円の保険金が支払われたことは、当事者間に争いがない。

三  相続

以上のとおりで、損害残額は四七〇〇万一二〇八円と認められるので、原告ら各人の相続額は、原告一郎及び同トシ子が、各六分の一ずつの各七八三万三五三四円、原告惠莉が三分の二の三一三二万四一三八円となる。

四  原告らの損害額

1  原告一郎及び同トシ子

(一) 損害合計 各七八三万三五三四円

(二) 弁護士費用 各八〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告一郎及び同トシ子についてはそれぞれ金八〇万円と認められる。

(三) 合計 八六三万三五三四円

2  原告惠莉

(一) 損害合計 三一三三万四一三八円

(二) 弁護士費用 三一〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告惠莉については金三一〇万円と認められる。

(三) 合計 三四四三万四一三八円

第四結論

以上のとおり、原告一郎及び同トシ子の請求は、被告醍醐に対して、それぞれ金八六三万三五三四円及びこれらに対する本件事故の翌日である平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、参加人に対して、原告一郎及び同トシ子の被告醍醐に対する本判決が確定したときは、金八八七万八一九〇円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で、原告惠莉の請求は、被告醍醐に対して、金三四四三万四一三八円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、参加人に対して、原告惠莉の被告醍醐に対する本判決が確定したときに、金三五五一万二七六三円及びこれらに対する本件事故の日である平成六年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堺充廣)

嶋﨑一郎(現在価値計算)

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